培養細胞の凍結処理には、いままで様々な手法と試みがされてきました。細胞の成分のほとんどは水であり、凍結中にできる氷の結晶が細胞膜を傷つけ、生存率を低下させてしまうことは良く知られています。また、細胞内と保存液の間で浸透圧の不均衡が生じ、細胞内の水分が外へと移る脱水化現象が生じます。これらの「凍害」を抑制するために、DMSOなどの細胞凍結保存液(凍結保護剤)を利用するとともに、ゆっくりとサンプルを冷却することで細胞内の氷晶形成を抑える、緩慢凍結法が細胞凍結のデファクトスタンダードとなっています。
緩慢凍結法では、一般的に-1℃/minの冷却レートが好ましいとされています。市場には、イソプロパノールを利用した簡易的な凍結用具も販売されていますが、凍結する細胞の種類や濃度によって条件は変わりますし、サンプル(細胞懸濁液)そのものが持つ潜熱を考慮した、最適な凍結を実施するためには、「プログラム・フリージング」が必要だと言えます。
プログラムフリーザー(海外ではControl Rate Freezingと呼ばれます)とは、その名の通り「計画された凍結」を指します。電子回路あるいはコンピュータで制御される冷凍庫を用いて、サンプルの温度を任意の温度設定と冷却速度にてコントロールすることができます。プログラムフリーザーの歴史は古く、以前から冷媒に液体窒素を用いた製品は広く普及してきました。一度に大量の細胞サンプルの凍結処理ができるため、バイオバンクや細胞を大量に扱う業務では重宝されています。しかし装置は大型で、液体窒素を供給する配管が必要であるなど、身近な存在とは言えないものでした。
近年の再生医療・細胞治療研究の発展により、いかに細胞の生存率を安定的に、高く維持するかは、大きな命題の一つでもあります。株化細胞に比べ、これら研究に用いられる細胞は初代細胞や幹細胞といった、非常にナイーブで温度感受性が高く、特に自家細胞を用いる場合は、他に代えがたい貴重なリソースでもあります。
再生医療・細胞治療の現場となる細胞加工施設、いわゆるCPF(Cell Processing Facility)では、厳密な空調・清浄度管理と、作業の内容に応じグレード分けされたゾーニングがなされています。多くの場合、部屋の余剰スペースがふんだんにある訳ではなく、限られた作業動線と空間内で決められた作業手順で日常の業務がなされています。
弊社では、この問題にいち早く着目し取り組んできました。京都大学iPS研究所からの要請を受け、CPF内にマッチするプログラムフリーザーの開発に成功しました。弊社製プログラムフリーザーは、スターリングクーラーと呼ばれる新技術を採用しています。スターリングクーラーは、天然のヘリウムガスを使用する環境に優しい完全なCFCフリーシステムです。従来のコンプレッサー式冷凍機や液体窒素と比べ、多くの利点があります。
何より、液体窒素を使用する必要がないため、ランニングコストがかからず、液体窒素供給のための配管も不要なため、クリーンルーム内の工事をする必要もありません。通常の電化製品と同様、設置して電源ケーブルをコンセントにつなぐだけです。
ストレックスのプログラムフリーザー CytoSAVERは、液体窒素を使用せずに、幹細胞、臍帯血、そしてIVFなどの研究用細胞サンプルを徐々に凍結できる製品です。貴重なサンプルの冷凍プロセスにおいて、高い再現性と生存率を確保するために、凍結速度を精密に制御することが可能です。この装置は卓上型で非常にコンパクトなデザインです。
また、FDAタイトル21 CFRパート11(cGMP)に適合したモデルもラインナップに含まれています。FZ-2100およびFZ-2200FZ-2200はおおよそ1mLサンプルを81本まで搭載することが可能です。FZ-3100およびFZ-3200モデルは、1mLサンプルを171本まで搭載できます。血液バッグも効率的に搭載することができます。
CytoSAVERは、液体窒素を不要とし、電力のみを用いて細胞を凍結します。この手法により液体窒素による汚染の心配がなくなり、クリーンルームや窒息の危険がある狭い空間でも、安全かつ安心して利用できます。
CytoSAVERは操作が簡便で高い信頼性を備えており、プログラムの設定は正面のタッチパネルから直感的に行えます。生成されるPDF形式のレポートは、USBを介して簡単に出力可能です。
サンプルが凍結した後、CytoSAVERは内蔵ヒーターで装置の温度を迅速に+4℃または室温まで引き上げます。これにより、サンプルを他の装置に移す際にも、次の作業までの待ち時間を最小限に抑え、作業効率を向上させます。この高い作業効率は、研究や実験において生産性を向上させ、研究者の方々が実験をより迅速かつスムーズに進めることを可能にします。
細胞加工施設での機器の利用については、実施記録が正しく残されることが重要です。細胞の凍結処理の結果データは実施するたびにPDF形式のレポートで出力することができます。また、GMPに対応するバリデーションやIQ/OQについても柔軟に対応できます。今後も弊社は、研究目的だけでなく、製造目的にも使用できる高性能・高品質なプログラムフリーザーをお届けしてまいります。